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2023/11/01

小説 ある日突然 7

6から続く http://bhaveh.cocolog-nifty.com/blog/2020/04/post-73f28f.html

1)はっきりしてきたことは、少なくとも私は、大麻なんとかで調べられているわけでもない。カシがあるとかないとか言っている訪販なんとかで調べられているわけでもない。もっと別な事件だ。しかもそれはもっともっと重大な事件だ。しかも、どうやら一年前のXデーに関係がある。そしてはっきりしてきたことには、その日のことはかなり明確に思い出されてきたのである。

2)だとすれば、冤罪である。もちろんその事件とは私は全くの無関係だ。そんなこち出来るわけがないし、そもそも動機がない。そんなことして、なんのメリットが私にあるというのか。もしその事件と繋がりがあるとすれば、確かに私は普通の男だし、女性には関心がある。若い女性が嫌いだなんて、言えない。

3)素行が決して上品とは言えない。だらしがないと言えなくもない。だが、それなりに自活して、家族を養っている身だ。そりゃ上等な男とは言えないだろうが、それほど悪く言われる理由は思いつかない。ましてや、やっちゃぁいないよ、刑事さん。あんた、なんか間違えてますね。何を間違えてんの。

4)いや待てよ、想定される犯人像と、私がダブるような要素はどこにある。まず、時間が割と自由に動けることだ。独り身の自由業だ。法人化しているとはいうものの、社員は自分と、名義だけの女房だけだ。拘束されていない。一年前は、確かにワゴン車にも乗っていた。土地勘は確かにある。いやいやそれだけではない。思いを巡らしてみると、色々出てくる。

5)私は古くなったワゴン車を、格安で友人に譲ったのだ。しかも同時に、女房の中古軽自動車も、別な友人に譲ったのだ。車の維持は大変だ。入院していた義父のお見舞いにと女房専用にしていたが、結局義父は亡くなったため、軽はあれば便利ではあるが、結局一台のステーションワゴンに集約したのだ。

6)確かに、中古2台を処分して、いきなり新車にしたのは、急に葬りが良くなったかのように見える。子育てで金欠病なのに、新車を買うなんて、おかしい。大した稼ぎも無いくせに。まぁ、そこまでの勘ぐりは許そう。しかし、もっと複雑なことには、その軽を譲った二番目の友人の家の近くが、第二の現場だったのである。

7)つまり、第一の現場は、私の住まいから南に数十キロ離れた山中。そこには自転車やカバンなどに遺留品が残されていた。しかし第二の現場は北西方向に数十キロ離れた新興住宅地。新興とは言え、山を切り崩して造成されたニュータウンゆえ、雑木林などはあちこちに散在する。その辺りのどこか一角に、遺体は遺棄されていたのだ。なんという因縁だろう。

8)いやいやそれだけではない。最近の新聞記事によれば、第二の現場にはいくつかの遺留品があり、犯人のものだろうとされるえんじ色の紐も残されていたという。ははぁん? 思いつかないわけでは無い。私が趣味にしている運動の稽古着では、確かに似通った紐は存在する。私はこの時になって、初めて、これは冤罪ではなく、何者かが、私を罠に嵌めようとしているのではないか、という悪意をはっきりと感じ始めたのである。

9)ここまで来て、この物語の全体構図が、ほんのりと、見えてきた。殺人事件と、警察と、私と、もう一つの存在。当然、真犯人はどこかにいるわけだが、それは単なる第三者なのか、あるいはなんらかの意図を持って、私を窮地に落としいれてやろうという、いわゆる陰謀のようなもの。そんなものがあるのかどうか知らないが、そのような可能性をも、考えざるを得ない事態に至っていたのである。

10)警察は警察で焦りがあった。あれだけ世間を騒がせた事件である。なんとか犯人を捕まえてやろう。そう思っていたに違いない。私自身もそう願っていた。誰だ犯人は? 早く捕まえてくれ。だからこそ、新聞記者の質問に、犯人像は絞られた。あと一月ほどで事件が解決すると、リークさえしているのである。夕刊にそう書いてあった。しかし、まさか、絞られていたのは、私だったのか?

11)だとすれば、全くの見当違いである。少なくとも、私が捜査線上に残ったとするならば、警察は1年経っても、何もつかめていない、ということになる。何をやっているんだ?

12)朝の訪問者があったあと、しばらくは動きがなかった。仕事には不自由したが、書類等は、申請すれば検察庁で開示してくれた。一月ほどして、私は新聞に実名で報道された。三面記事で、ほんの小さな記事だった。私は見逃したが、テレビでも報道されたらしい。テレビでは実名はなかった。ただ友人や同業者から見れば、なんとなく私が類推されたようだ。

13)私に容疑は、当然、殺人などではなく、訪販なんとかの容疑だった。もちろん単に書類の誤りで悪意など毛頭ない。詐欺なんてものではない。大袈裟な処置だったが、おそらく、奴らとしては、私についての追加情報が必要だったのだろう。その証拠に、記事が出たあと数日して呼び出された。これこれこのような人から、悪い評判が届いている、という。一件だけだが。褒める人もいたけどな、と、あのボスが、ぼそっと言った。

14)私は私で、今回の因縁について、もう一段広げて、陰謀論的に、深く考えてみた。私を陥れて、なにが楽しいんだ? 誰が、何のために? そうしてみると、これまた不思議なことに、思いつくことが、確かにいくつかあったのである。

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