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2020/04/18

小説「ある日突然」(仮題)<3>

<2>からつづく

小説「ある日突然」(仮題)<3>

 町中から、会計事務所の友人が、デイバックを背負って、バイクでやってきた。彼は私より何歳か年下だが、頭は私よりもうちょっと左に考え方が偏っている。私が今朝、自宅でこのような状況に陥っていることに状況的に理解している。しかし、直接的な原因は何か、それについては、私同様、理解はしていない。

 お互い顔を引き寄せて、何事か伝えようと思ったが、あの下っ端野郎が、じっと専門的な臭覚を持って見つめているので、何もできない。彼が持ってきたわが社の書類を受け取ったのみとなった。彼は不承不承、バイクで帰っていった。

 奴らは、書類の中の、なにかを探している。何かを裏付けようとしているかのようだ。一体、なんだ。2時間あまり、家の中をガタガタやった挙句、その中のいくつかの書類と、事務機器を、段ボール5つほどに詰め込んで、古びたバンで帰って行った。バンの後ドアを上げて段ボールを積みこむ時、近くのおばあちゃんが、興味深そうに、こちらを見ていた。おそらく、ばあちゃんにも、事情はよく分からないだろう。

 彼らが帰る時、午後何時に、署に来るようにと言い残していった。なんだ、これで終わりではなくて、これからまた始まるのか? 少なくとも、即逮捕されるほどでもないのだな・・? 自虐的に笑った。

 地域の中核的な警察署は、隣の隣の町にある。車で30分ほど。わざわざ行くってのも、なんだかなぁ。約束の時間より30分ほど前についてしまったので、署の入り口にある応接セットのようなものに腰かけて時間稼ぎをする。ちょっと見ると、署の看板の脇に、大麻取締署みたいな看板も小さくかけてある。

 あ~ん、これかぁ・・・。だからあいつらうちの灰皿がどうした、とか聞いてきたんだな。ばかだなぁ、いまさらそんなことやってるわけないじゃん。だいたい煙草も吸わないんだから。ばかばか・・・。いろいろな思いが巡る。でないとしたら、なんなんだ・・・?

 時間が来て、二階に上がり、テレビで見るような、いわゆる取り締まり部屋みたいなところに通された。なにやら呪文みたいに、黙秘もできますよ~、みたいな儀式も行われたが、こちらは別段、黙秘すべきことなど、思いつかない。そもそもが、もともと秘密など持てない性格なのだ。どんな質問でもお答えしますよ、モードである。

 立ち会うのは、3人のうちの若造の一人。部屋には大きく窓があって、外の駐車場が見える。パトカーやらバイクやら警察官の通勤用の自家用車などが見える。おそらくここは、それほど重要な部屋ではない。せいぜい面接室だ。型どおりの木製の机と、パイプ椅子がいくつかある。名前、経歴、いろいろ聞かれる。

 背広を着ていったので、胸についているバッチについて聞かれる。これはボランティア活動のバッチですよ。これはおそらく関係ないでしょ、とその場で外して、ポケットに入れる。いろいろ細かいことを聞かれているうちに、自分のライフストーリーが浮き上がってくる。もし、おいらが将来立派な人になって、人生の歴史を聞かれるようになるとしたら、少なくとも、この聞き取り調書が、公的な自己史になるな、なんて不謹慎なことを考える。

 あなたは訪問販売法に違反している。書面にカシがある。?? 訪問販売法? しかもカシ? 瑕疵ってのはわからないだろうが、間違いがあるということです。????? ほう・・・・・。なんだ、なんだ・・・?

 どうやら、私がお客さんに渡した書面に間違いがあったらしい。いや、私から言わせれば、間違いというほどではない。単に、一個、認め印が抜けていただけである。んんん・・・・? そこを突破口にして、やつらはいろいろ聞いてくる。覚えていることもあるし、覚えていないこともある。

 去年のこの日、君は何をしていたかね。そんな~、一年前のことなんか、知らねーよ。覚えているわけないだろう。でも、この書類とこの書類が残っている限り、この日のことも思い出せるのではないかね。

 う~ん、たしかに、あの日はあの人と会ったし、次の日はこうだったな。で、当日は? あ~、ホント、何にも残ってね~。こいつら、ここを突いてきているんだな・・・。よくよく思い出そうとしたが、どうも思いつかない。しかし、それにしても、なんでこいつら、ことさら、この日についてだけ、詳しく、根っこ掘りをしてくるのだろう。

 おい、これって、別件じゃないのか? オレはまなじりを決して、若造をにらみつけた。ちょっとひるんだようだったが、突然、パイプ椅子から立ち上がり、面会室(取り締まり室か)のドアを開けて、でて行った。ちょうど、そのドアが開いた時、向こうのボスの机が見えた。そして、そこにいたのは、ボスと、見たことのある顔だった。

 あれは医者だよ。我が家の近くのかかりつけ医院の院長だ。なんで彼がここにいるんだ? ましてや取り調べ室のドアを開けたままにして、彼と私が、直接お互いが見えるようにしたのはどうしてだ? やがておもむろに帰ってきた若造に聞いてみた。あのクリニックの院長、なんでいるの? ああ、患者さんがちょっとしたトラブルがあってね。本当にそうか。どこか、言い訳臭いぞ。

 これは、いわゆる面通しという奴ではないか。私を確認させたのだ。なんで、彼が私を確認しなければならないんだ。おかしい。おかしいことだらけだ。ますます謎は深まる。

<4>につづく

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