小説・ある日突然(仮題)<2>
小説・ある日突然(仮題・編集中)2
大体分かってきたことは、こいつらは、怒っている、ということである。決して私は愛されていない。とにかく鵜の目鷹の目でみているということだ。なるほど、私は、決して理想的な優秀な生活ライフを送っているとは決して言えない。間違いとか、ま、いいか、という程度の、いい加減な態度は確かにある。思えば、いい加減なこともあるにはあるだろう。
しかしだ。こいつらの態度は明らかに違う。こんな扱いをされているのは初めてだ。学校時代だって、たしかにケツを叩かれたり、ドヤされたりしたことはあった。それは今思えば、あいつらが暴力教師とか、悪評の立つような癖のわるいコーチとか、そんなもんだけだっただろう。軍隊帰りの体育教師とかね。
こいつらは、なにか部屋を見せろという。いわゆるドヤなんとか、家宅捜査、というやつだな。こいつら我が家から何を探そうというのだろう。何が欲しいんだ? 三人のうち、一人は明らかに私の挙動をチェックし続けており、他の二人は、隣の部屋の妻のタンスを開け始まった。こいつら、何の権利があって、こんなことするんだ。もっともそんなところから、何んにも出てこないけどね、妖しいものなんか。
靴下とか、古い手帖類とか、子供のおもちゃとか、買っただけでいつの間にか組み立てるのを諦めてしまった、大型のプラモデルとかね。あとは、衣類、寝具類、書類。書類と言っても、古い書籍類は狭い自宅では圧迫感がありすぎるので、定期的に古本屋に持っていっている。どこにもあるようなばかりだろう。
と、一人の若いでデカ(だろうな)が、小さな引き出しから、私の資格書類をファイルを引き出して、興味深そうにみていたあと、それをボス(だろうな)に見せている。それは、珠算とか、簿記とか、英検とか、雑多なファイルだが、その中に、農業機械士とか、農業用劇物毒物取扱主任とか、危険物とかの資格試験も入っている。
どうやら、こいつらは、そのような私の人物像につながるような、なんらかの決定的な要素を探しているようだ。珠算や英検ではない。明らかにハードな、私の能力や指向性につながる何かを探しているのだ。なんだろう・・・・?
台所や、男の子と女の子の二段ベッドもある私たち一家の寝室は、かなり簡単にジロリと目視しただけだ。ここらあたりは、あんまり興味はなさそうだ。トイレや風呂も、まぁ、どうでもいいや、という態度だ。そもそも、こいつらは、その辺あたりまでの捜査権を持っていないのかもしれない。
次に彼らの強い関心を引き寄せたのは、私の事務室である。事務室とはいうものの、風呂の脇の通路から、本来は一回外にでて靴を履き替えてつながっていた、ちょっと大きめの物置を改造した、なんちゃって事務所である。屋根は波板トタン、壁面も波板トタン。床は、隣の畑に続いた土面だ。土面じゃなんだから、と板製の桟橋をいくつも並べて、まぁまぁ、スリッパでも寒くないようにしているだけだ。
壁も屋根も床も、実に最小限だ。いわゆる物置だから、そんなものでいいだろう。中からは、もう一度ベニヤとか古い板戸とかを打ち付けているが、基本的には、外に音は筒抜け、風はぴゅーぴゅー吹き込んでくる。もっとも、この日は、5月の中頃だったので、それほど寒くはないが、部屋の四隅のどこからかは、雨漏りがいつ起こってもおかしくないくらい、隙間だらけだ。
電話もある。電話も実は、延長コードというのは、正式には電話会社と契約して5メーターほどのものを使用しなければならないそうだが、これは日曜大工の余ったコードを流用している。これは、たしかに違法といえば違法だが、今回の容疑ではなさそうだ。見て見ぬふり。当時はやり始めてミニファックスなども、まぁ、どうでもいいや、という雰囲気。
そこで、突如、彼らの中のボスが、「これはなんだ?」と言い出した。ああ、それは私が興味ある新聞記事の切り抜きですよ。奴らは、それをなぜか、興味深そうにチェックしている。内から打ち付けた木板で作った机の前の壁に、画びょうで止めておいたものだ。大したもんじゃない。新刊本かなにかの案内広告だ。
もっと他にないのか? ないのか、って、あるかもしれないが、そんなもの、何か関係あるの? 私は若干左寄りの新聞の購読者ではあるが、そんなこと、関係あるかな。この地域だって、何割かは、この新聞の購読者であるはずだ。何に興味があって、なにをしたがっているのか、なんてこいつらは関係ないだろう。
そのあと、彼らは私の営業日誌に関心を持ち始めた。そんなものないですよ。そんな豆ではない。だが、全く記録がないわけじゃぁない。いろいろあるよ。と出して見せる。経理関係はあるか。もちろん、ありますよ。だけど、今、決算の関係で、会計事務所に渡してあるけど。じゃあ、それを持って来るように言え。なんとも、ひとつひとつが上から目線。いい加減こいつら、なんなんだ。
当時はやり始めったPHS電話で、会計事務所に電話をかける。会計事務所と言っても、相手は古くからの私の友人だ。親父と母親と妹と4人で営んでいるごくごく当たり前の小さな事務所だ。友達も私と同じやや左がかった奴だから、ちょっとした電話で、今、私がどういう状況に落ち込んでいるのか、すこしは理解したようだ。簡単に説明し、いますぐ書類一式を持ってきてくれ、と依頼する。
その一部始終を、一番若い奴がじっと監視している。なにか私がおかしなメッセージを送ったりしないか、チェックしているのだ。おいおい、なにが起きてんだ。なんなんだ、これ・・?
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