小説「ある日突然」(仮題)<5>
小説「ある日突然」(仮題)<5>
あと考えてみれば、いくつも腑に落ちないことがある。まず、そもそもの私の「かし」は、書面に印鑑(認印可)が押していないことだけである。本当は詐欺罪で逮捕だ、などと脅かされるほどのことなのか? それに、何月何日は何をしていたのか、と特定の日だけを突っつき込んでくる。なんで? なんでその日だけなの?
それにあの言葉も気になった。本屋好きだろ? 帰りに本屋によって、この言葉を調べてみな。なんだよそれ。ひょっとすると、私は以前から、後を備考されていたのではないか? 確かに私はロードサイドで、書店があれば、ほとんど立ち寄る癖がある。ほとんどは週刊誌とか、ゾッキ本の最近の動向を感じているためではあるが、時にはアダルト本コーナーに目がいかないわけでもない。
こいつら、オレをじっと観察していたのだろうか。気味悪いなぁ。署からの帰り足、兄弟に電話した。こういう事情だ。自分でもよく分からん。今後、自分の身に何がおこるか分からないので、とにかく電話しておく。同情される。人権という奴があるんだ。無理やりはできないだろう。うん、そうは思うが、もうすでにここまでの段階で、私にとっては、もう無理やりというしかないだろう。
家に帰っても、重要な書類は持っていかれているし、道具もない。とにかく仕事はできないのだ。他にやることとと言えば、自分がなぜこんな境遇に陥っているのか、ということを究明することだ。いくつかのヒントがある。奴らは、私が壁に新聞の切り抜きを画びょうで貼っていたことに、異常に関心を持っていた。そして、あの、特定の日時に関心を持っているようなのだ。
とにかく、その日の記述のありそうな、新聞記事をパラパラと見始める。今でこそ宅配新聞は購読していないが、当時の私は、情報元として複数の新聞を読んでいた。そして、古新聞も、一か月とか、時には数か月を物置に保存しておいたのだ。パラパラすれば、なにかヒントがつかめるかも。
トップニュースの大文字とか、経済面の小難しそうな記事とか、文化面とかには、あまりその情報はなかった。あるとすれば、三面記事、しかも地域版だ。それも、最近のビックニュースではなく、いくつかの事件のその後についての追加情報だった。その中に、ほとんど、これだろう、という記事を見つけてしまった。
それは、一年前の殺人事件である。もうあれから一年になる。まだ未解決の難事件だ。テレビでも全国版で当初は大きく何回も報道されたが、それから数週間、数か月すると、あっという間に忘れされてしまっていた。そうそう、そういう事件もあったよな。あれ、どうなったの? あ、まだ解決していないんだ。難しいのかな。
その事件というのは、こういうことだ。ある山中の下校道路で、女子高校生が通学用の自転車とともに行方不明になって、それから数日後、その現場から十数キロ離れた、まったく違ったエリアで死体で発見された、というものだった。遺留品も多く、土地勘のあるものでなければ、犯行できない手口だそうで、それほど難しくなく犯人は見つかるだろう、という事件のはずだった。それが、なかなか手がかりが見つからなかったのだ。
その新聞記事は、その経緯を書いていて、たしかに難事件だが、警察はもうすでに、重要な手がかりをつかんでいて、あと数日で犯人は逮捕されるだろう、という内容の報道だった。ふ~ん、そんなものなのかな。その犯行の日付が、あれ、そういえば、署でやたらと奴らがこだわっていた日付で同じじゃないか? なんか、おかしくないか?
ひょっとすると、オレはこの事件の重要参考人として、別件で調べられているんじゃないか? あ~~ん、んなことないだろうが、万が一、ってこともあるぞ。確かに、オレはあの山道を数度通ったことはあるが、土地勘があるなどというほどのことはないがな~。死体が遺棄されていたエリアも、まぁ、行ったことはないが、住所を聞けば、だいたいわかることはわかる。
それに、自転車ごと運ばれた、っていうから、犯人はおそらくワゴン車の所有者だ、ということになっている。えええ、オレは確かにワゴン車の所有者ですけど。それがどうしたの。自転車ごときは丸ごと確かに運ぶことはできますよ、だけど、それがどうしたの。そのワゴン車は、ごく最近、友人が欲しいというから、譲って、新しい車を買ったばかりだよ。
ん、ひょっとすると、あの車はどうしたんだ、って奴らが聞いてきたことに、このことは関係しているか? 証拠隠滅でもしているかのように見られたのだろうか? それに身分不相応に、確かに新車を現金で買ったよ。だけど、そのほとんどは母親が、介護の代わりに出資してくれたんだよ。もちろん借金だ。ちゃんと返さなければいけないんだよ。
え、俺って、ひょっとすると、突然金回りが良くなったように、見えていたりして。いや、そんなことはない。たしかに新車が来たので、出資者の母親を乗せて、家族ともどもディズニーランドに遊びに行ってきたよ。だけど、それがどうした。んなことは、どこの家庭でもやっているだろうよ。
だけどなぁ、疑いの目で見てみれば、なるほど、いろいろと、オレはあるモデル像にハマってくるよ。オレを犯人に仕立て上げようとすれば、確かにそうなるかも。ええ? たしかにコンビニなんかに立ち寄って、アダルト本などを不用意に手に取って、パラパラする時だってあるよ。だとすると、私をなにかの変質者に仕立て上げることだってできるよ。ええええ、なんなことないだろう。
あやしい、なんかあやしい。
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