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2019/02/02

「オン・ザ・ロード1972」<17> 06/24 札幌

<16>からつづく

Jkk1
「オン・ザ・ロード1972」80日間ヒッチハイク日本一周
「時空間」創刊号 1972/11/20 時空間編集局 ガリ版ミニコミ 102p 目次  全日程
★★★★★

<17>1972/06/24 札幌

 この日、私は札幌にたどり着いた。北海道は広い、札幌まで戻るのも大変な道程であった。翌日25日は、私たち三人の初めてのドッキングの予定の日だった。大事なミーティングの日なので、私は前日の夜のうちに札幌入りしたのである。

 何とか札幌駅にたどりつけば、今夜の寝場所は確保できるだろう。そういう思いであった。私と同じような目的で駅にたどり着いたカニ族は多くいた。しかしである。そう甘くはなかった。この日の宿泊地は、札幌とはなっているが、札幌駅、とはなっていない。夜の12時になって、私たちは、駅から駅員によって締め出されたのだ。

 真夜中の街に追い出された私は、疲れた体を休める場所のアテがはずれ、トボトボ歩いていた。とその時、後ろから中肉中背の男性に声をかけられた。ひどいよな、こんな時間になって追い出すなんて。おい、君はどこか今夜泊まるところがあるの?

 いやないですよ、ちょっと寒いけど、その辺の公園ででも一休みしようか、と思っています。ああ、そうかい、そんなら、オレは近くの安宿の知っているところがあるからそこに泊まるけど、キミも一緒に来る?

 ええ・・?、それは有難い。だけど銭はないですよ。いいよ、オレが出してあげるよ。え~、いいんですかぁ~。私はその30くらいの男についていくことにした。途中まだ空いていた酒屋でビールを数本買った。そして、畳敷きの部屋のある旅館にたどり着いた。

 さぁ、ビールを飲む前に風呂にでも入るか、一緒に来る? ええ、それは有難い、風呂などまともに入っていない。ましてや安宿とは言え、ちゃんと布団のある旅館の風呂である。決して広くはないが、大き目の共同浴場で、10人位は入れる大きな浴槽があった。

 されど深夜ということでもあり、風呂で体を洗っているのは、私たち二人だけであった。彼はちょっとナルシスト的なところがあって、どうだ、オレの体、白くて綺麗だろう、と言った。ああ、そうですか、なんて私は気のない返事をした。

 彼は私の体を覗いてきた。汗臭いからちゃんと洗っておけよ、と、私の股間まで覗いている。まぁ、そうですねぇ、石鹸でゴシゴシしておいた。私はこれから何が起こるのか、まったく気づいていなかったのである。

 遅くなったので食事は出なかったが、持ち込んだビールを飲んで、さっそく並べて敷いてもらった布団に横になった。眠くなった私はすぐ寝入りそうになったが、男は、なにやらひとり言みたいにつぶやいている。

 オレはさ、旭川から来たんだけど、オレの一族はみんなヤクザなんだよ、みんな体に入れ墨を入れていて、オレにも入れろ、っていうんだ。ほら、オレの体、白いだろ、入れたら綺麗だろうな、って兄貴たちがいうんだ。

 そんな話を聞いていて、私は恐ろしくなってきた。ヤクザと聞いて、私はすぐに逃げ出したくなったが、すでにビールもちょっぴりごちそうになり、布団まで潜りこんでしまっているのだ。えい、このまま明日の朝までここにいて、朝になったら逃げてやろう。大きく構えていた。

 しばらくすると、男は、寒いな、と言い出した。え? 寒くはないだろう。確かに6月の北海道はまだまだ寒い。だけど、旅館の中で、ましてや風呂に入ったばかりだ。私は寒くなかった。しかし、その、寒いな、の台詞には、理由があったのだ。

 彼はちょっと寝返りを打って、足の角度を変え、私の布団の中に足を突っ込んできた。可笑しな奴だな。最初はそう思って、されるままにしておいた。親族はヤクザばかりだ、という彼の台詞がちょっと怖くもあった。私は直立不動のまま天井に顔を向けたまま、眠ったふりをしていた。

 すると男はだんだん大胆になり、私の股間に手をやって、こすりだした。はぁ、何するんだぁ、この男、と思ったが、彼の手つきは慣れたものだった。やがて、彼は天井を向いて天狗になっているものに顔を寄せて、吸い出した。

 この時になって、彼が風呂場で私の股間を覗き込んで、綺麗にしておけよ、とつぶやいた意味が分かった。

 世にその趣味の人がいることはいるらしい、というのは聞いたことがあった。しかし現実にそのような人とで出会ったのは初めてだ。聞き及ぶところによれば、彼らの世界には、オタチとオネエ、という役割があるらしい。彼はどうやらオネエだった。

 彼は、暴発した液体を綺麗に自分の口で吸い取ると、満足したように、自分の布団に戻り、私より前に寝息を立てて寝入ってしまった。

 朝になって、旅館が出してくれた朝ごはんを、二人で夕べ何事もなかったように食べた。そして、彼は、僕は午前中仕事があるけれど、お昼、あそこの地下においしいレストランがあるから一緒にたべようね、とメモをくれた。

 私はおとなしく、はい、などと言って、食事の後、旅館を出た。別れた後は、サッサと逃げた。翌日が私たちのドッキングの日で本当に良かった。助かった。

 思うに彼は、おそらく毎晩のように札幌駅に出かけるのだ。そして、12時になれば無銭旅行者たちが締め出されることを知っているのだ。彼が駅に泊まろうなんて、最初からしていないのだ。そんな奴が、他人の宿賃まで出すワケがない。彼は最初からその狙いなのだ。

 そして、時間前に適当に品定めをしておいて、おもむろに、お好みの餌食に声をかけ続けているのだ。哲学者のヴィトゲンシュタインなども、その道の人であったらしいが、時に、強烈な激情に駆られて街に繰り出していくこともあったようだ。

 世にLGBTの性差別の話題が飛び出す現代である。私は積極的にその話題に首を突っ込む気はないが、あまり偏向した意見をここに書いておくのも、何かと差しさわりがある。意見はともかくとして、事実をそれらしくメモしておけば、ここでの務めは、これはこれで終了していいだろう。

<18>につづく

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