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2019/01/31

「オン・ザ・ロード1972」<70>08/16 潮岬

<69>からつづく

 

 

Jkk1
「オン・ザ・ロード1972」
「時空間」創刊号 1972/11/20 時空間編集局 ガリ版ミニコミ 102p 全日程
★★★★★

 

1972/08/16 潮岬

 最近、能楽についてちょっと考えている。手当たり次第にDVDなり動画を見て、まずはその周辺情報を集めていて、ちょっとしたマイブームである。

 能楽が、うつつか幽霊かというようなきわどいシーンの連続なものだから、我が幽霊体験をたまに思い出す時がある。幽霊と言っても、それが本当かどうかはなんとも断定はできない。その時の体調や心境によって、そのように内面処理した方がよいと、我が心理が判断することもあるのだろう。

 必ずしも多くない体験だが、ひとつ思い出したので、このタイミングで、ここに書き連ねておく。

 時はお盆の真っ最中。日本全国お休みだ。こんな日にヒッチハイクをするのは、大変だ。みんな自分のことでいっぱい。ヒッチの旅人などに目をくれたりはしない。その日も私はだいぶくたびれていた。

 午後になり、クルマを頼ることなどせず、我が足に頼って移動した距離もだいぶ長いものになっていた。そんな時、一台の車が止まってくれた。今考えれば、あれはカローラかサニーだっただろう。コロナほど大きくはなかった。

 そのクルマは新車だった。ハンドルにまだビニールカバーがついていた。運転しているのは中年のお父さん、おそらく40代だっただろう。国鉄職員か公務員風の実直なお人柄と見た。そのクルマには奥さんと子供たちと犬まで乗っていた。

 私などが乗るほどのスペースなどすでになく、なんでまた止まってくれたのかといぶかっては見たが、止まってもらったのはありがたい。さっそく同乗させてもらうことにした。しかし、クルマの中での会話は弾まなかった。

 こちらはなんでこのクルマは止まってくれたのかな、といぶかっていたが、逆にあのお父さん家族は、「しまった、なんでこんな奴拾ってしまったのかな」とでも言いたげな、雰囲気さえあった。

 おそらくお父さん一家は新車を買って始めてのファミリードライブだったのだ。うれしさいっぱいのところ、たまたまヒッチハイカーを見つけて、物珍しさに拾ってしまったのだ。一旦拾ってしまえばむげに放り出すこともできない。しばらく、お互い言葉のないまま呉越同舟とあいなった。

 一時間ほどしただろうか、ロードサイドにスイカ売りの小屋がでてきた。私はスイカが食べたいので、この辺で、と遠慮がちにお父さん一家を見送った。スイカ売りもすでにほぼ売り切れで、残ったスイカを4分の1ほど分けてもらって食べた。

 そこからしばらくいくと、砂浜が見えてきた。日も陰りつつあり、浜辺では多くの人がでていた。浜に櫓を組んで、にぎやかに踊っていた。そうか、きょうはお盆なのだ。あれは盆踊りなのだ。

 日もとっぷり暮れ、盆踊りの輪も次第に小さくなり、考えてみれば私はこの夜に泊まるべき家をまだ見つけていなかった。幸いその日は満天の星空だった。そして、砂浜には、漁具などを重ねておく小さな開放式の小屋があった。壁などはなく、たた漁具に屋根をかける程度のものである。

 その日も疲れていた。おそらく夜8時か9時前であっただろう。私はかなり眠たくなって、その小屋の中、と言っても、単に砂浜に柱を立てて簡単な屋根だけをかけたものだったが、そこに横になって、リュックを枕に眠りについた。

 浪の音がさらに眠りを誘った。そのまま朝を迎えるはずだったのだが、夜中に私は突然目がさめた。おそらく1時とか2時とかだったのではないだろうか。自分のとなりに人の気配を感じたのだ。たしかにその人はそこにいた。

 私は18歳だったが、その人はおそらく20代、そしておそらく20代後半、三十手前でなかっただろうか。男性だった。いや、別に目で確かめたのではなかった。そう感じたのは、こちらはほとんど目を閉じてウトウトしているのに、あちらから声をかけてきたのだ。

 「どっちから来たの?」 眠りながら、頭の底でその質問をうけつつ、私はこうしてヒッチハイクで日本一周をしているんだよ、と話した。そうかいいなあ。実は僕も東京から来たんだよ。でも、東京もいろいろあってね。人生つらいこと一杯あるよなぁ、てな話をしてから、おそらく私はまた深い眠りにはいり、彼も眠りについたらしかった。

 それから数時間して夏の砂浜に朝が来た。おそらく3時半か4時には東の空は明るくなっていただろう。おそらく、隣の彼ももう目を覚ますかもしれないな。ふと、隣を見て、声をかけようとして振り向くと、そこにはもう誰もいなかった。

 へぇ~早いな。と、隣を見て不思議だった。そこにいたはずの彼の姿が見えないばかりか、砂浜に足跡さえ残っていない。あれ~、あれは夢だったのか。不思議な気分だった。気ままな旅ゆえ、いろいろな人と出会い、いろいろな人に声をかけられることがある。別に特別なことではなかったが、それにしても、彼はどこに行ったのだろうかなぁ。

 なんて、その日はその日で、終わって、次の目的地に向かって、ヒッチの旅を続けることになった。

 後年、私はあの夜のことを何度も繰り返して思い出しながら、ふと、あの人は幽霊で、あのお盆の夜に引き寄せられて、盆踊りを見にやってきたのではないか。彼は東京に疲れてこの地にやってきたのだ。そしてこの海に身を投げたに違いない。

 若者の一人旅の少年は話しかけやすかったに違いない。ある時は、そんなストーリーで理解していた。そしてさらに後年になって、熊野や天河などを旅するに及んで、私に別な感想も浮かび始めた。

 あの青年は、ひょっとすると、熊野の神様ではなかっただろうか。所縁吉祥よろしく、何事かの機縁あって、私は熊野の神様と遭遇したのではないか。そう考えてみるのも楽しいものだった。

<71>につづく

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