「さとりサマーディにて」<35>右、左、右、左
<35>右、左、右、左 目次
部屋に入ってみると、一段と母の反応は鈍くなっている。声だけでは、訪問者が誰なのか、わからない。名前を告げると、それはわが息子であることはわかるらしい。今日は何日なの、と聞く力はあるが、それが、夏なのか、春なのか、その辺のところが、ちょっとあやふやになっている。
ベットの脇には新しい張り紙があった。施設の介護スタッフが体の向きを注意してくれているのだろう。すでに自力で歩くことも、起き上がることもできない。体のあちこちが硬直していて、自力では寝ている自分の姿を変えることができなくなっているのだ。
幸いにして、褥瘡(じゅくそう)というか、床ずれはまだできていない。「床ずれは大変だよ、床ずれは治らないから。床ずれが大きな病気への最後の引き金になることが多い。気をつけないと」と、わが友、マッサージのO師も、注意をうながす。
2時間おきに、入所者ひとりのために体の向きを変えてくれるなんて、大変な作業だなと思う。椅子の上には、その日誌記録も新しくできていた。右、左、右、左。本人は、もう何もできないが、何をしてもらっているかはわかる。「どうもありがとうございます」と、最近とみにか細くなった声で、感謝の言葉を述べるだけだ。
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